奏 〜Fantasia for piano〜
自分に呆れた後は敷地から車を出し、土と砂利の農道を徐行しながら道沿いに進む。
子供の足だと十分ほどかかったけど、車なら二、三分かな……。
せっかく来たんだから、奏のおばあちゃんの家も見てから帰ろうと思った。
奏のおばあちゃんが健在で、そこに住んでいるかは分からない。
うちのおばあちゃんと同じくらいの高齢だったし、普通に考えると厳しいかな……。
住んでいなかったとしたら、うちと同じように取り壊され、更地になっている可能性は十分にある。
とすると、あの六角形のピアノ部屋も、もうないのかな……。
ガタガタ道を進むこと二分ほどで、車のヘッドライトが木造平屋の家を照らした。
「あった!」と思わず、独り言を叫んでしまう。
奏のおばあちゃんの家は、取り壊されずに残っていてくれた。
窓には明かりが灯されていなくて、真っ暗。
誰も住んでいないのか、それとも住人が寝てしまったのか……。
狭い道路に車をそのまま放置して、ゆっくりと足を門に近づけた。
辺りには夏草と土と夜の匂いが立ち込めている。
それは都会にはない密度の濃い香りで、それについても懐かしさが込み上げた。