奏 〜Fantasia for piano〜
唇を噛み締め、小さな手をグッと握りしめて駆け出し、土の農道からアスファルトの道に出た。
確か、お父さんの車はこの道を通ってきたと思う。
来たときは車で二時間くらいかかったけど、歩いたら、どれくらいでお家に着くのだろう……。
歩き始めて三十分くらい経った頃だろうか。
いつの間にか緩やかな登り坂になっていて、歩きやすいアスファルトではなく、また土と小石の混ざった地面に戻っていた。
こんな道、お父さんの車で通っただろうか?
道幅は車一台分くらい。
両脇には背の高い木々が生い茂り、満月の光も届かない。
森の中の細道に迷い込んだ私は、足元がよく見えなくて、木の根につまずき転んでしまった。
痛みを感じた途端に、帰ろうと決意した気持ちがくじける。
道を間違えた。
ここがどこか分からないし、自分で帰ることはできない。
迎えにも来てくれないし、お母さんとお父さんに、もう会えないんだ……。
『お母さん、お父さん』