奏 〜Fantasia for piano〜
しゃくり上げながら、座り込んで泣いていた。
するとそのとき、どこからか綺麗な音が耳に届いた。
真っ暗な森に似合わないその音は……ピアノの音?
幼稚園で理恵先生が弾いてくれるから、その音はよく知っている。
風に乗って小さく聞こえるピアノは、練習しているかのように、同じフレーズを繰り返していた。
悲しみと心細さに黒く変色していた心は、染み込む美しい音に、ピンクや水色、淡い黄色と、パステルカラーに塗り替えられていく。
手の甲で涙を拭い、立ち上がった。
山道を外れ、木立に分け入り、音のする方へと導かれるように進んで行った。
しばらくなだらかな斜面を下っていたら、突然ポッカリと視界が開けた。
木々が途絶え、綺麗に刈られた芝生の庭に出たのだ。
見失っていた満月も空に戻ってきて、森を抜けてきた私にとっては、周囲が明るく感じられるほどだった。