君の幸せな歌を
手洗いうがいを済ませた冬和が向かいに座って、恥ずかしそうな顔をする。自分たちの曲がかかってることにようやく気がついたらしい。
「何でこれにしたの。新しいアルバムあるのに」
言いつつ、冬和が両手を合わせる。あたしも同じようにして、揃って「いただきます」をした。
あたしがかけていたのは、『Midwinter』ファンが恐らく喉から手が出るほどほしいであろう幻のアルバム。まだインディーズだった頃に出した数量限定のミニアルバムだ。
だって好きなんだもの。今日は何だかこれが聴きたかった。
「冬和の声が若いよね」
「すごく恥ずかしい」
でも懐かしいね。たくさんのときを積み重ねてここにいるんだ。
路上ライブで警察に注意されたとき、ライブでお客さんから盛大な拍手をもらったとき……デビューしないかと声がかかったとき。
そのすべてにあたしが一緒にいることができて、見ることができて、あたしは本当に幸福者だと思う。
「冬和の声が澄んでいるってこと、あのとき気づけて良かったな」
「ああ、高校生のとき? 月歌にいきなり別れるって言われたときあったよね」
「あったね。あのとき別れてたらどうなってたのかなあ」
冬和が何でか訊いてくれなかったら、きっと終わってた関係だった。