恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
あおいさんと仲良くなったところで、一緒に片付けた伝票処理も無事に終わり、その日は定時で上がった。

次の日、気持ちも新たに『カントク』の特別班の部屋へ入室すると、大上部長はじめ、特別班のみんなが勢ぞろいし、テーブルを囲んでいる。

重苦しい空気は入り口から入ってすぐにわかった。

「椎名萌香、こちらに来い」

と、大上部長は冷たい口調でわたしを呼んだ。
すぐに大上部長のいる机の前まで駆け寄った。

「一件落着したな」

「……はい」

「辞令が届いた」

「わたしに、ですか?」

戸塚さんが大上部長の机の上に一枚の紙を置いた。
その辞令にはわたしの名が記されている。

「本日を持ってこの管理部特別課から事業部へ配属が決定した」

「どういうことですか、それ」

「以上だ」

大上部長はそう言い放つとメガネの位置を直し、冷たいまなざしを送る。

「以上だって、そんな」

「新しいIDカードだ。住居については追って連絡する。荷物をまとめておけ」

と、鈴井さんから白いIDカードを渡された。

「現存のIDは没収だ」

仕方なく、IDカードホルダーから黒いIDカードを取り出して鈴井さんに渡した。

あおいさんが白いIDカードをみつめながら寂しそうな表情を浮かべている。

「仕方ないことだ。初めからここにいたくないって宣言していたしな」

「……そうですよね。そうでした。これで『カントク』卒業できます」

「物分かりのいい部下を持ってうれしい」

めずらしく大上部長の声が弱々しく聞こえた。

気のせいだろうけれど。
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