恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
大上部長はメガネの位置を直すためにフレームを小刻みに動かしていた。

「これから仕事が入っていますから」

「どうしても付き合ってくれないんなら、お父様にいいつけるわ」

発動したか、自分の後ろ盾があることを。

「聡も困るだろうけど、一番困るのはこの会社の社長さんでしょ?」

小首を傾げながら小動物のような愛くるしい表情をつくっているのはかなりの常習犯だろう。

「じゃあ決まり。これから、あたしに付き合ってよね、聡」

わたしは二人の見届け人か何かなのか、と思いながら、失礼しますと小さくつぶやいて部屋を出ると、大きな音を立ててドアを閉めた。
お嬢様とわたしなんか勝てるわけがないのに。
どうして大上部長のこと、好きになっちゃったんだろう。

ようやく『カントク』に慣れようとしている最中で、大上部長もわたしのことをわかりかけていたところだったのに。

「椎名さん、お疲れだね。顔に出てるよ」

1階エントランスに出ると、守衛室から顔を出す横尾さんが声をかけてくれた。

「……わかりますよね」

「情報は知ってるから」

と、横尾さんがわたしの気持ちを察してくれたのか、さらりと答えてくれた。

「藍華さんはあおいさんと違って甘えっぱなしだったから父親も困ったんだろう。だからウチの会社に預けたんだろうけど」

「この先どうしたらいいんでしょうね」

「地道に見守って仕事を覚えさせるしかないかもね。大丈夫、椎名さんならやってのけられるよ。今回の任務も」

横尾さんの優しい言葉に癒されながら会社を出る。
大上部長は藍華さんとデートなのか、と駅へ向かう会社帰りのサラリーマンとOLの仲睦まじい姿から二人を投影してしまう。
明日からどうやって大上部長と接したらいいんだろう。
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