恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「カントクって、噂ではかねがね聞いていたけど、まさかあたしがターゲットだったのね」

「今回はあなたのお父様からご依頼があってね。あやしい人間と接触があるって。あと人材育成も頼まれちゃったけど」

うふふ、と軽く笑いながらあおいさんが話す。
隣で大上部長は静かにうなずいた。

「……そうだったの。騙してたってこと?」

「騙してなんかない。藍華さんのこと皆が思っていたことよ」

あおいさんが諭すと、早乙女さんはまたわたしを見たときのように今度はあおいさんを睨む。

「そうやって半人前みたいな扱いして。だからあたしは」

「わかっている。これから経験を積めばいいんだ」

大上部長がやんわりと藍華さんに言い聞かせた。

「だって、聡が」

「これで任務は完了だ。明日から藍華お嬢様の会社で仕事の引き継ぎをしてもらう」

大上部長に対して猫撫で声で反論したつもりが、大上部長はいつも通り真面目に仕事通りに早乙女さんに接した。
そんな、と力なく藍華さんがつぶやくと、

「さみしいの? 仕事中あんなにつんけんしていらしたのに」

と、あおいさんがすぐに突っ込みを入れる。

「でも、あたしには聡が……」

「まだそんな事言って。早乙女さんには婚約者がいるじゃありませんこと?」

婚約者というキーワードに早乙女さんは甘い夢から覚めたようで肩を落としていた。

「近々帰国するって話を聞きましたわ。アメリカで経済を学んでこられたお相手。お婿さんとして迎えるそうね。そのお方と肩を並べるように二人でお父様の会社を支えていくのね」

「久々に会った途端、聡の想いがあふれてしまって」

「……そうだったんですか」

心の中でつぶやいたはずが、声に出てしまった。
藍華さんに睨まれると思ったけれど、その顔は優しく穏やかだった。

「椎名萌香よりもたくさん幸せになって今度はしっかりと経営基盤を構築してみせるから」

芯が通り、力強い宣言を藍華さんからもらえた気がした。
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