恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「どうしてあんなこと、するかな」

自分の部屋に戻って荷物を備え付けの机の上に置くと窓辺に立ち、天井からのびるレースのカーテンを半分開けて外を眺めていた。

すでに日は落ち、街灯や遊園地、橋のたもとから、いろんなあかりが瞬いている。

はあ、とため息をついて、かけていたメガネと髪留めを机の上に置くと、スーパーの袋を持って小さなキッチンへ向かい、買ってきた食材で簡単な夕食をつくり、窓辺のテーブルに移動して夜景をぼんやりみながら食事をとる。

今頃どこかのカップルはこの上でゆっくり休んでいるのかな、と想像してしまう。

一瞬、大上部長の姿を思い浮かべた。
今頃まだ下で仕事をしているんだろうか。

机の上に置いた、さっきまでしていたメガネと髪留めを横目でみる。

けしかけているつもりはないのに、どうしてメガネと髪留めで注意されてしまうんだろう。

わたしのメガネ、髪留めをとった瞬間の大上部長の顔つきが明らかに変わっている。

硬くしていた表情が一瞬、やわらんでいたように思えた。

いつも大上部長はわたしに対して冷たくする。
それなのに、あおいさんに対してはやさしい。

わたしとあおいさんとの温度差を比べてみても、やっぱり大上部長とあおいさんとの距離が近いんだ。

大上部長はあおいさんのこと、好きなんだろうか。

くだらないこと、考えてしまう自分がいる。
あんなに親しげに接している二人をみて、胸につまるものがあるなんて。

こんなに苦しいのは、なぜだろう。

大上部長のこと、考えちゃうなんておかしい。

もしかしてわたし、大上部長のこと、気にしてるのかな。

ただの上司なのに。

でも、どうしてキスを拒まなかったんだろう。

いけない。これは『カントク』としての大上部長の策略かもしれない。

大上部長をかわす術なんて。
わたしにできるんだろうか。
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