恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「物足りなさそうな顔、してるな」

大上部長は片手間にわたしの相手をしている。

「期待しなくてもいい。おまえの処理能力が優れているのがわかるから。また新しい仕事、増やしてやるよ」

そういうと、ニヤリと笑っている。

別に仕事量増やさなくてもいいのに、と思いつつ、与えてもらえる事務作業をこなしていく。

メガネと髪留めを避けて仕事をしていたせいか、大上部長はわたしに手だしすることもなく、言葉の端々に冷たさを漂わせるぐらいで害はなかった。

津島のことなんかすっかり忘れ、1ヶ月ほど事務仕事を進めていた頃だった。

「仕事が発生するみたいよ」

いつものようにたまる書類を整理しようとしていたところで、薄紫のワンピースに同色のジャケットを羽織ったあおいさんが話しかけてきた。

「次の仕事、ですか?」

「大上部長が会議から戻ってきたらお話しがあるんじゃないかしら」

ようやく次の仕事がくるのか、と気がつけば心の底からうれしい気持ちがわいてきた。
午後になり、大上部長は社内会議から戻ってきたところで、あおいさん、戸塚さん、鈴井さん、横尾さんがそろい、部屋の中央にあるテーブルを囲み、ミーティングを開始した。

「集まってもらったのは、仕事の依頼が来た」

「ターゲットは受付の野村と業務部の津島だ」

わたしは、その二人の名前を聞いた途端、ごくりと唾を飲んだ。

「どうした、椎名萌香」

「……いえ、なんでもありません」

「どうやら社内をおびやかす秘密の鍵を握っているらしい」

あおいさんから資料を渡される。
一番上の資料には名前と所属している部署名、写真が添付されている。
資料に目を通しているときに感じたのは、大上部長の冷ややかな視線だった。

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