黄昏の千日紅
” …なったら…な…ず…よ ”
” く…ら、…こんし…な ”
優くんと私の幼い頃の会話が、もう少しで出てきそうなのに、どうしても思い出せない。
まるで、壊れたテープレコーダーのように。音が途切れ途切れに聞こえてくるように。
思い出せないことについては、医師から心因性の健忘症であると診断された。
精神的なものが原因で、突然過去の記憶が無くなったり、一部的に空白になってしまう症状であるらしい。
まあ、今更思い出したとしても、私に何もないことは変わりないのだが。
私はすっと目を閉じる。
瞼をおろせば、そこにいつも初恋の優くんの大きな背中がある。
当時の彼は、艶のあるサラサラとした黒髪が印象的で、フレームのない眼鏡を掛けていた。そして、私よりも少し背が低かった。
そんな彼の姿ももう、九年も経てば靄が掛かったように思い出せない。