黄昏の千日紅
「凛、最近あんまりぼーっとしなくなったね」
すっかり季節は肌寒い季節に変わり、私達はそろそろ高校二年へと進級する時期に突入する頃になっていた。
帰りのホームルームも終わり、二人で教室の席に腰掛けている。
厚手のベージュのカーディガンを、スカートから覗く膝小僧に掛けた。
「うん、まあもう諦めてる感じ」
飛鳥にぎこちない笑顔を向け、そう言うと、彼女は落ち込んだように視線を自分の足元に向けた。
「そっか…」
「いやいや、飛鳥が落ち込むことじゃないし」
すると、下を向く彼女の表情が、何となくどこか不自然に思えて、私は少々怖気付く。
「…飛鳥?」
「ん?」
こちらを見る飛鳥の表情はいつもと変わりない、筈なのに。
何となく、何かが違うような。
いや、私の精神が、崩壊寸前なのか?
飛鳥のことさえも、よく分からなくなってしまっているなんて。
目の前の飛鳥が、本当の飛鳥なのか。
今この場に居る私が、本当の自分なのか。
現実が現実ではないような、何か大きな出来事を、脳内のどこかに置いてきてしまっているような。
__何か重大なことを、忘れてしまっているような。
一瞬、自分でもなにを考えているのか分からなくなる程、私自身が、私自身を理解出来なくなる、変な現象に陥った。
頭が、ぐわんぐわんと大きく揺れている感覚。気持ちが悪い。