黄昏の千日紅
そして脳内で色々と整理しながらエレベーターで下降している時に、私は馬鹿な自分に呆れ、項垂れた。
「あー…何で傘差してあげなかったんだろ…」
相当焦っていたのか、それとも単に間抜けなのか。
雨の中、小さな犬をそのまま放置してしまうなんて。
最悪だ。
今日何回これを思ったことだろう。
ゆっくりと降りていく小さな箱の中で、一人ぽつりと言葉を嘆いた。
「私のばか」
扉が開くと、目の前で住民の女性と鉢合わせしてしまい、慌てて笑顔を作り、軽く会釈する。
こういう愛想笑いというやつも、社会人になってから慣れたものだ。
エントランスまで出ると、子犬の居た場所に何か青いものが見える。
目を良く凝らして見てみると、その子犬の上に青い傘があるように見える。
私は自動ドアの側の傘立てから傘を抜き、急いでマンションを出た。
やはり青い傘が、子犬の雨風を凌いでいるようだ。
その目の前で、服のフードを深く被り、顔を埋めている人が座り込んでいる。