この夏の贈りもの
ここへ来て消えていた恐怖が全身に絡み付き、その場から動くこともできなくなる。


「答えろよマヤ」


……『マヤ』


唯人の目に映っているのはあたしじゃない。


『マヤ』という別の女性だ。


唯人が怒っているのはあたしじゃない。


『マヤ』という別の女性だ。


あたしはスッと息を吸い込んで、唯人を見つめた。


唯人の黒い瞳にあたしが写っているのが見える。


だけど唯人が見ているのは、あたしじゃない。


それなら……。


「うるさいな!!!!」


あたしは大きな声でそう言っていた。


自分でも驚くくらい大きな声で、自分の鼓膜がビリビリと震えている。


でも、そんなことどうでもよかった。


唯人があたしを見ていないのなら、あたしが何を言ってもあたしが嫌われることもないのだから。
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