この夏の贈りもの
男子は怖い。


あたしはなにをしたって許されない存在だ。


その場にいることすら否定される。


そんな存在に、男子がした。


あたしの視界に写っている唯人の顔が歪んだ。


涙が浮かんできているのだと気が付くまでに、時間がかかった。


高校に入学してからは泣くことはなくなっていたから、頬に涙が流れた瞬間あたしは驚いていた。


「唯人、言いすぎだろ」


和があたしと唯人の間に割って入る。


「泣けばいいと思ってるのかよ」


唯人の言葉が更に突き刺さって来た。


あたしだって泣きたくなんてなかったよ。


なにをされたって、あんな奴らのために涙を流すなんて嫌だったよ。


でも、涙は時々自分の意思とは関係なく流れ始めるんだ。


もう限界だよって、心の叫びが涙になって浮かんでくるんだ。


まだまだ大丈夫。


そう思っているのは自分だけで、自分が自分の限界を知らないだけで、涙だけは本当の自分を知っていた。


「明日になれば本当に裕は成仏できるのか?」


唯人があたしを睨み付け、そう聞いて来た。


あたしは何も言えず、ただその瞳に怯える。


吸い込まれそうなほど綺麗な唯人の瞳は、今はあたしの心を付き刺す刃物になっている。
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