この夏の贈りもの
「生前約束していたんだ。必ず迎えに来るからって」


とまどっているあたしに向けて、裕がそう言った。


「そう……なんだ?」


「あぁ。それなのに途中でこの教室は封鎖され、死んでからも迎えに来ることができなかったんだ」


そう言われて、あたしはこのドアに張られていたお札を思い出していた。


あれがあったから、裕はこの部屋に入る事ができなかったようだ。


「俺が会いに来れなくなってから、ホナミさんの悪霊化が進んでいたんだ」


「約束を……破られたと思ってた」


ホナミさんがそう言った。


その声は時々低くなるものの、女性らしさのある声に戻っている。


ホナミさんの心残りは裕。


裕の心残りはホナミさん。


2人の心残りが同時に果たされようとしているのだ。


それは、大空の時とよく似ていた。


だけど……。


「ホナミさん、うごけますか?」


裕と同じようにその場にしゃがみ込んでそう聞く。


長時間同じ場所に止まり、悪霊として過ごしてきた霊はその場から動けなくなっていく。
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