この夏の贈りもの
同じ場所に止まり続け、この場所に来る人間を不幸にするだけの存在になってしまう。


ホナミさんが腰を浮かそうとしているが、体はビクともしない。


「大丈夫ですか?」


裕がホナミさんに手を貸す。


しかし、その力じゃどうしてもこの場から離れることができないようだ。


ホナミさんが泣きそうな表情を浮かべて裕を見る。


「やっぱり、経を読むことが必要みたい」


あたしはそう呟いた。


悪霊を安心して成仏させるための経は、まだしっかりと記憶できていなかった。


中途半端な経では悪霊の魂を悪化させてしまうだけだから、あたしの独断で行うことはできないことだった。


「チホ、どうにかならないのか?」


和がそう聞いてくる。


あたしだって、どうにかしてあげたい。


だけどあたしは完璧な経を読むことができない。


経はただ読めばいいというわけじゃない。


言葉の中に魂を込めて、その言葉を悪霊に届かせる必要があった。


あたしには、まだそこまでの技術が備わっていないのだ。


「……どうしよう……」


あたしが不安な表情を浮かべれば浮かべるほど、ホナミさんが放つモヤは増えていく。
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