この夏の贈りもの
あたしは慌てて2人に駆け寄った。


しかし裕にあたしの声は届かない。


モヤの中に見えた裕の顔は、目が吊り上がり人間への憎しみを露わにしたものだったのだ。


「裕、行かないで! 悪霊になんてならないで!!」


大好きなホナミさんがこの場所から動けないと知り、自分も悪霊化することを望んだのかもしれない。


裕は見る見るうちに黒いモヤに翻弄されていく。


ダメだ……。


このままじゃ裕も悪霊化してしまう。


そうなればあたしの手には負えなくなってしまう。


あたしは震える手で数珠を握りしめた。


その時だった。


「仏説魔訶般若羅蜜多心経」


胸の奥にズシリと響くその声にあたしは驚いて振り向いた。


「お父さん!?」


あたしが持っている琥珀の数珠と同じ数珠を持ち、そこ立っているお父さんにあたしは唖然としていた。


「驚いている暇はないぞ。悪霊化のスピードが速い」


そう言われて視線を戻すと、2人の体はすでに黒いモヤで覆われて見えなくなってしまっている。
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