この夏の贈りもの
唯人の言葉は力強かった。


力強かったが、あたしに入り込んでくるマヤの感情は不安と焦りと恐怖しかなかった。


唯人が国に取られてしまう。


唯人が戦死してしまうかもしれない。


唯人と、もう二度と会う事もできなくなってしまうかも……。


そこまで考えると、自然と涙があふれ出していた。


ラジオのニュースでは今も日本軍の栄光をたたえる事を伝えていた。


でも、それって本当のことなの?


そんな疑問が浮かんでくる。


戦争で勝ったか負けたかをラジオでしか知る事ができないあたしたちは、現実が見えていないのかもしれない。


「絶対……だよ?」


行かないで。


本当はそう言いたかった。


でも言えなかった。


ここは外だ。


もしそんな事を言えば非国民としてひどい非難を受けてしまう。


だから、あたしは何も言うことができなかった。
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