雨を待ちわびて

えっ、…何…これ。何の騒ぎ?パトカーに、黄色いテープ。事件?…何?
遠巻きに人も結構集まっていた。あ、え…何があったの…。

「あの、すみません、ここ、何かあったんですか?空き巣とかですか?」

落ち着いた感じの男の人に声を掛けて見た。

「ああ、いや、違うよ。人が死んでたらしいよ、そこのマンションのゴミ集積所でね、遺体が発見されたってさ」

…え。遺体?

「こ、ここの人なんですか?その、遺体の人って」

「あー、それがね、男の人らしいんだけど。なんだっけ、えーっと、どこそこの社長じゃないかってとか、言ってるのが聞こえたんだけど…。あー、どこだったかな。とにかくね、遺体の様子が酷い状態だったらしいんだよ。あっ、詳しく知らない方がいいよ?凄いらしいから。具合が悪くなってしまうよ?
いやしかし…、犯人、誰なんだろうね。ここら辺の人間だったら恐いよね」

「あ、はい、そうですね。…はぁ…有難うございました」

「あ、君、ここに住んでる人?」

「え、あ、…いいえ、違います」

「あ、そう」

…何だろう。胸騒ぎがする。どこそこの社長…男…。

離れた方がいい。何だかそう思った。
踵を返して、歩きだそうとした時、腕を掴まれた。死ぬほど驚いた。…誰…。
…え?

「シーッ、こっちに…早く」

え、あ、不知火さん…何?どうしたの?
すぐ横の建物の陰に入り込んだ。

「部屋にはもう帰らないで、…入らないで」

「え?」

「部屋には何も無いから」

「え、あの、どういう…」

「…死んだのは社長。柳社長だよ」

っ!!息を飲んだ。…声が出ない。口を両手で押さえた。
身体が震え始めた。膝がガクガクして力が…腰が砕けそうだ。身体に力が入らない。

「おっと、大丈夫?しっかりする迄居てあげたいけど、僕もう行かなきゃいけないんだ。
いいかい?よく聞いて。もう二度とここには来ちゃいけない。いいね、絶対だよ?
お金は?ある?暫く困らない程度に持ってる?」

辛うじてコクコク頷いた。

「じゃあ大丈夫だね。よく聞いて。もう大丈夫だ、あいつは居なくなったんだから。ここら辺じゃ無く、どこかで暮らして、落ち着いたら仕事をするんだよ?…普通の生活をするんだ。もう自由だ。いいね?もう何も心配いらない、大丈夫だよ?
だから、いいね?」

「あ……あの、不知火さんは…」

やっとの事で声を絞り出した。

「僕?僕は好きな人のところに行くんだ、今からね。……元気でね。早く、ここから離れて。さあ早く。…じゃあね」

あ、…。
嘘…嘘だ。本当に?本当に柳が…、死んだの?
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