雨を待ちわびて
ピンポン。
「守田さ〜ん、守田さ〜ん」
ピンポンピンポン。コンコンコン。
「居ませんか?今朝、対応した石井です。守田さ〜ん」
…。
目配せする。
「すいません、お願いします」
管理者に開けるよう促す。
「入りますよ〜、失礼しま〜す」
ドアを開けた。一目で解った。ワンルームの部屋は既に何も無かった。
…。
見事に何も無い。もぬけの殻だ。…はぁ。
「契約はいつから?」
「はい、えーっと、二年前くらい、ですかね」
「ずっと住まわれていた?」
「ええ、確かに。荷物もあったはずですよ?入る時は布団とか搬入してましたから。ここは会社で借りて貰っているんです」
「会社…。勿論、守田さんのお勤めの会社ですよね?」
「えっと、そうだと思いますが。こういう契約だと、一旦契約が済みましたら、正直、実際はどんな方が入るか迄は、…解りませんからね」
…では住人は会社の人間では無い可能性もあるという事か。誰を住まわせようが借りてしまえば自由って事か。
「貴方は守田さんと面識はあります、よね?」
「え、ええ」
「どんな感じ?身長とか、見た目の印象。最近は?会いました?」
「ええ。印象で言ったらかなりの美人です」
石井が、ほらと言わんばかりの顔をする。
「女性の例えは、中肉中背って言い方をしたらいいんですかね…」
「えっ?!」
石井が素っ頓狂な声をあげる。
「160センチ前後で、色白で…髪は肩くらいで、こう、フワッフワッとさせていたような。…目鼻立ちの整った、とにかく目を引くスタイルのいい美人ですよ?」
「いやいや、スレンダーで、身長はもっとこう高いですよね?」
違うだろうって、身振り手振りを交え、石井は自分の説明に同意を求めようと必死だ。
身長は何故か、俺基準に目の位置を指し、このくらいだと言う。あ、でもヒール履いてたな。実際は少し低くなるのか、と呟く。
最早、自分の見た印象も、正確では無いと思い始めたようだ。
「いいえ?守田さんですよね?ヒールを履いてもそんなに高く無いですよ?」
「…可笑しいな、大きかったんだけどな…」
「流石に写真はありませんよね?」
…。
「あるんですか?」
「はい、でも、これは、いや、でも。やっぱりこれは…」
男は急に吃り始めた。
捜査の為には協力しないといけないと思ってはいるようだが、どうも何かまずいらしい。
「この際、どんな理由で撮ったかは聞きません。あるなら見せて頂けませんか?協力して頂きたい」
出すだろう。
「…しかしですね」
「あるなら提供してください」
…。
「解りました、実は…、これなんですが」
「え?持ってるんですか?」
男は渋々携帯を取り出し、画面を弄る。
「つい。…つい、見掛けて。遠くから撮るくらいは、OKかな〜って…。
…すみません」
「いつも会える訳じゃない。せめて写真でも…眺めていたくなったってとこですか…」
「…はい。すみません!」
許可なく盗撮、か。それほどの美人か。…好みか。
陽はまだそんなに高くもない。暑くもないのに、管理者一人だけが急に汗だくだ。