雨を待ちわびて
「これはデイトレーダーといったところかな。充分過ぎる程、利益は出してたみたいだな。こいつは、やり始めたら動きが気になるからなぁ。でもな、ずっと張り付いてなきゃいけないもんでも無いらしいぞ。
他にも、…色々やってるみたいだな…。
まあ、詳しくはパソコンを持ち帰って見てみないとな。俺とは畑が違う。
残念ながら血痕らしき物は出そうに無いぞ。
仮に何かに付いてしまったとして…抜かり無く始末したのかも知れんな。それ用に準備しておいたとか。
浴室も、何も出ない…綺麗なもんだな。
なにか?最近の男は過剰に綺麗好きなのか?女が使うような化粧水とか、なんだこれは…、入浴剤か。袋だと何か解らんな。子供が口に入れる訳だ。
異常に美意識が高いのかな、ここの住人は」
「綺麗だったらしいですよ。なあ?石井」
「はい…」
「女装してたようなんですが、全く男だって解らなかったらしいです。こんな生活をしてたら、意識して鍛えない限り、筋肉は無くなりますよね。
実際、色白で痩せてました。スレンダー美人で、モデルみたいだったって。
なあ?石井」
「はい…そうですよ…」
「フ、ハハハ、らしいな。俺も拝みたかったなぁ」
「でも男ですからね」
「ああ、…まあな。この服も、ここの男が着てたって事か」
「多分。石井、見覚えは?」
「あります…これ、着てました。……くそぅ」
「クローゼットの中も、いい匂いがするなあ。…クンクン、女の香水みたいな。
ああ、この防虫剤の匂いか…。昔のほら、いかにも防虫剤の匂いってのは、もう無いのか?あれは臭いよな。服にズッと付くし。
で、結局はコッチなのか?」
顔の前で片手の甲を反対側の頬に付ける。
「んー、話した感じは普通でしたから、ただの女装家止まりじゃないですかね。いかにもみたいな喋り方は一切しなかったですから」
上手く使い分けられる人間なら解らないが。
「ふ~ん、趣味の楽しみってとこか…。
結構な年齢のおっさんにも居るらしいな、その女装家とやら。ブラジャーもつけるらしいじゃないか。あ、あれ、ストッキングとやらも。
しかし、他人の名を騙るなんて、その人間にでもなりたかったのかな。…好きだったとか。
反対に、少し面倒に巻き込んで、困ればいいやと思ったとか。
それで自分が助けるような事をして、近付く口実、きっかけにしようとした、とか」
「中々、想像力豊かですね。ドラマの鑑識のおっさんは割と寡黙なのに…」
「んー?どっちも綺麗なんだろ?まあ、一人は男だけど。
綺麗っていう事は男の時も整った顔って事だろ?美男美女じゃないか。その、この隣の美人はまだ解らないのか」
「え?…はい」