雨を待ちわびて
身元不明の遺体が発見されたという事もない。
首尾よく逃走したのだろう。どこかに潜伏しているだろうが、不知火元の足取りは掴めなかった。
身元を偽って発見者だと名乗り、即、居なくなったという事が、ただの発見者では無いと言っているようなもんだ。
グレーから限りなく黒に近くなったな。
どこかに勤めていた経歴は無いようだし。生活振りからして親しい人間が居たようにも思えない。
誰か、関わりのあった人間は居ないのか。
…隣の……守田直。面識はあったんじゃないのか。
ふぅ…。
「石井」
「はい」
「どうだった?ナオミちゃんは。べっぴんさんだったか?ん?シたのか?」
「や、やめてくださいよぉ。片霧さんじゃないんですから。それに、声は可愛らしかったですけど…タイプではありませんでした」
「それは残念だったな。タイプだったら、できてたのにな?」
「そうですよ、あんなに積極的に誘ってきて……あ!違います。だから、違いますって。どんなタイプでもシませんよ。…全く。職権濫用もいいとこじゃないですか」
「フ、やっぱり知らないって?」
「はい。自分に関わった人間がもし番号を利用しても、どこの誰かなんて解らないって」
「まあ、そうだよな。逆に、全く関わりを持って無いかも知れないしな。
どうやってナオミちゃんの番号を知ったか知らないが、そうなると何から調べたらいいもんか。
関係のある相手は多そうだったか?不知火の特徴は言ってみたか?」
「不知火の容姿に覚えは無いみたいでした。面倒臭いんでしょうか、知らない知らないの一点張りで。
決まった相手も何人か居るそうですが、やはり相手は不特定多数だそうです。こういう仕事って、余程親密な仲で無いと、名前までは聞きませんからね。聞いたところで、本名かどうかなんて、解らないっちゃ解りませんよね」
直接では無く、誰かから番号を入手したという事か。
「人気、あるんだな」
「あの、…専門的な、ですね。ナオミちゃんはポッチャリとしてました。そういう専門店らしいです」
「…なるほど。それは、…タイプによるか」
「まあ、はい」
「不知火元の実家は?」
「はい、もう無いです。親も、もう居ませんでした」
「居ないとは、亡くなっていると言う事か?」
「すみません、はい、そうです」
「そうか。どこに行ったんだろうなぁ、不知火は…」
女が居たら女のところか…。あんな生活をしているからって居ないとは決めつけられない。
偽名使って、普通に紛れて仕事してたら、解らないかもな。パソコンも置いて行くくらいだ。暫くは困らないくらい蓄えは出来ていたようだし。
世間は不知火元を知らない。まだ容疑者って訳では無いから指名手配も出来ない、か。
「街の防犯カメラ、当たってみるか」
「どこの…です?」
「片っ端から」
「え゙ー!」