雨を待ちわびて
「……名前は?まだいいのが思い付かないか?」
…。
「本当の名前、忘れてるわけじゃないんだろ?」
「…はい」
今となっては、言い辛くなったか。
「…ルーシーはどうです?」
「ルーシー?ハーフか?いきなり、ぶっ飛んだな。どっかの店の源氏名みたいだな」
使ってるのか?まさか、本当にキャバ嬢って事も無いだろうが。
「…心はハーフ。全く掛け離れた名前の方が、貴方に迷惑掛からないでしょ?職業柄、訳の解らない人間を住まわせて、…こんな…身体を求められては、まずいでしょ?」
…まぁな。私生活で誰と寝ようが、勝手は勝手だけど。
しかし変わった女だな。
ルーシー…。知るの反対か?フ…それは違うか。
「心の半分はどうしたんだ?」
「…無くしました」
「ま、心なんてな、半分あれば上等だ。あと半分、どうしても欲しけりゃ増やせばいいんだよ。好きなモノとか、楽しい事とかでな。心の容量なんて、元々がどんだけの量かなんて、解んないだろ?
今が丁度の量かも知れないだろう?何がどれだけ足りないんだ?」
「ぁ…貴方は、雑なのか繊細なのか、本当は…優しいのか…、解らない人ですね」
「好意的になら、繊細で優しいと思ってくれ。軽蔑するような関係なら、俺は、雑で冷たくて…残酷な人間だ。
いつでも、そうなれるって事だ。俺に囚われたら逃げられないぞ」
「は、い…」
「いくつだ?歳くらい聞いてもいいだろ」
「29です」
「…聞くのは微妙だったか?」
「いいえ。聞かれて言えない歳なんて無い。生きてきたんだから」
「そうだな。俺もそう思う。女だからって、変にいつまでも若ぶろうとするのは変だ。違和感が…気持ち悪い時がある」
「はぁ…。はっきりそう言わない男の人がいけないんです。誰も彼も直ぐ…、女性イコール若い子じゃないと、なんて…大半がよく言うじゃないですか。男の人は子供っぽいんです。大人なのに大人じゃない。もっと本質で女性と付き合ったらいいんです。大人の女性とちゃんとつき合えばいいんです」
「ちょっとのつもりで言った事が、…地雷を踏んでしまったか」
男に酷い目にでも遭わされたか…。DVのような跡は身体のどこにも無い。綺麗なもんだが。
…精神面か。
「大丈夫です。地雷はまだあります」
この話で、大丈夫ってのは可笑しいだろ。
年齢の話の次は、どんな地雷が埋まってるっていうんだ?
一つや二つじゃないのか。