雨を待ちわびて
「もうニュース見て知ってるか?殺人事件」
詳しいことは言えない。公になっている部分だけだ。
「土曜の朝、片霧さんが呼び出されたのはこの事件?」
「んー、まあ、警察全体の事件だな」
殺されていたのは××会社社長。殺人だった。幸い顔は無傷だったから、身元の確認も早かった。息子が戻らないと警察に来た母親の言う特徴が合致した。
この年齢の男が、一晩帰らないくらいでそんなに慌てるかと思ったが、家庭環境で管理は違う。きっと息子にべったりだったのだろう。
もう生きていけないと縋り付いた遺体から滑るように崩れ落ちた。
嫁でも貰っていたら、さぞや大変だっただろうな。
だから独身だったのかも知れない。
気の毒だが、結婚するには余程従順な女性か、母親とは離れるしか無かっただろう。どちらも無理だったから独身か。
俺みたいな野郎も結婚には不向きな人間だが。解っているから人を好きにはならない。結婚は有り得ない。
「犯人はまだ捕まってないんですね」
「そうだ。気をつけろよ、なんて言っても、自分に思い当たらないような事で襲われる事もある。この事件に限らず…、いつどんな時と限らず、誰もが被害者になりうる」
「殺されるなんて…何があったんでしょう」
「…さあな。聞いてみないと解らないな」
「…亡くなった人はもう何も言わない…犯人の言う事が真実とは限らない」
「ああ、まあそうだな」
…近年の犯罪者。自分は可笑しいんだと、精神鑑定を要求してくる事が多くなった。…弁護士も弁護士だ。
それとは違う。グロい殺人をするやつは、元々そういうやつなんだ。見た目にはどちらか解らないけど。意思は明確に持って殺している。
強い憎しみがあっての殺人だ。
「…ルーシー。金は大丈夫か…」
「はい」
「そうか。俺は大富豪じゃないけど、給料は安い飲み屋の飲み代くらいにしか使わないから。要る時は言ってくれ」
「はい、言います。大丈夫です。…でも、もし、そんな時があったら、タイミングは気をつけてください」
「ん?」
「抱いた後でお金を置いて行かないでください。…買われた気持ちになります」
あのお金は使っていない。ベッドに備え付けの引き出しの中にしまってある。この人は開ける事も無いのかも知れない。言うまで気が付かないだろう。
「馬鹿…、思い過ごしだ。この前か…。悪かった、急いでいたから」
「…はい」
「初めから買ってるつもりなんか無い」
「はい。…解りました」
この人からお金でお世話を掛けるつもりは無い。
私、今まで振り込みされたお金を使う事も殆ど無かった。だけど、これからは使う。好きに使う。大丈夫、…どんなお金も、お金はお金。私が…心を壊して失くして…私の身体で得たお金。