雨を待ちわびて

いつになったら自分から話してくれる。話すつもりは無いのか。
…ルーシーだなんて。名前を話せばここにも居られなくなると思っているのか。
俺は刑事だ。被害者に関わりのある人物は粗方解っていると思わないのか。それでも、居るのか。

「仕事、無くなったって言ったな。保険関係は手続きはしたのか?病院にかかりたい時でも出来たら困るんじゃないのか?」

「大丈夫です。元々、雇用形態が会社員じゃなかったから。特に手続きとかは必要ないんです」

そうか、…正式な社員では無かったのか。

「新しい仕事は見つかりそうか?」

「まだ…追い追い、探します。今はまだちょっと…、休憩中です」

そうか。無理して始めるのもな。

「色々聞いて悪かったな。もう寝るか」

「はい」

ベッドからスルリと抜け出しソファーに行く。
…いつもそうだ。コトが終わると居なくなる。
別に何も聞きもしない。
俺達には、関係性が何も無いからだ。



「片霧さん、××会社、行ってみました」

「解ったか?」

「はい。というか、何でか解んないですが、曖昧な事が多かったです。
えー、…守田直は…7年前に入社しています。それから5年、一般事務として勤めています。それが2年前ですね、突然受付に変わったようなんです」

「受付?…へぇ、異例の抜擢ってやつか」

「そうなんですかね。しかし、実際は会社の受付には居なかったようです」

「は?いらっしゃいませ的な事は、していなかったって事か?」

「はい、そうなんです。誰も座ってるところを見た事無いって言うんですよ」

「でも、守田直の事を知らない訳では無い」

「はい、確かに居た社員ですから」

可笑しいだろ…。なんだそれ。

「本当に知らないのか?誰もが知ってる事実を、会社ぐるみで隠すようにさせていたんじゃないのか?」

「どういう事ですか?」

「守田直の前にも、そんな扱いの社員が居たんじゃないのか?」

「確かに、前は、なんとかって…、女性が居たって…」

「その、なんとかさん。今は?」

「今はもう辞められてるそうです」

「美人か?」

「え?まあ、美人だったそうです、受付ですからね」

「その、なんとかさんは、実際、受付業務はしていたのか」

「毎日では無かったそうですが、全く居なかったという事は無かったそうです。そう考えると、守田直は異例中の異例…どうなっていたんでしょうか」

「そのなんとかさん、その人の名前をちゃんと聞いて来い。現住所、連絡先。解らなければ、有りとあらゆる関連する事柄を出して貰って来てくれ。個人情報が云々て言うようなら、命が掛かっているとでも言って絞り出して来い」

「はい。そこまでする根拠はなんです?」

「守田直のしていた事…されていた事に繋がるモノは、今はそこしか無いからだ」

「…解りました」
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