雨を待ちわびて

「有希と守田さんは、仕方なく社長に契約させられたんです。そうさせるよう、先に、社長が弱みを作ったんです。そうするしかない…罠にかけられたんです」

「その契約とは、体の関係、つまり、愛人としての契約って事でだな?」

「え?……もう知ってるんだ。…そうです、金を支払う約束の上での契約です、強引な」

…家宅捜査した時、柳の自宅の書斎からは隠された大量のDVDが出て来たからな。不知火は何をどこまで知っていたのか。

「弱み、とは?脅すネタか。逆らえないような」

「知ってるんですよね?…あの社長は可笑しいんですよ。好みの女子社員を見つけると、社長室に呼んで、まずそこで無理矢理、するんです…。その行為を用意周到に盗撮していました。あらかじめカメラをセットして。それに加え写真もです。押さえつけられ…全裸にされた時の物や…最中の物まで…」

…。

「それをネタに?」

「…はい。最初に社長室でした事を記録したと言って、契約書にサインをさせるんです。初めは有希でした。
有希は…5年間ですよ?5年もの間、社長の気分で呼び出されては…嫌でも仕方なかった…」

…しかし、金は貰っていた。契約通りにだ。

「…ふぅ。…それが、…有希も30半ばになって来ると、あまり呼ばれる事がなくなって来たんです。…あの男の求めるモノは、本人にしか解りませんが…、これも性癖というんですか、30前後が好みらしいんです。こういうの、拘りとでも言うんですかね…。
普通の恋愛なら、誰をどう好きになろうと、いつ嫌いになろうと、勝手にしろって感じですが、…これは恋愛なんかじゃないですから。34になった有希は、…もういらないって。解放された、と言えばいいんでしょうかね。
それで、次に標的になってしまったのが守田さんです…。
守田さんが27の時に、…有希にした時と全く同じように。社長室で行為を盗撮され、写真を撮られた。
…その上、守田さんの場合は、もっと逃れられない…軟禁に近い状態にされた。守田さんはあの部屋、柳に用意された部屋に住まわされたんです。…なぜ逃げないんだ、なぜ警察に言わないんだって、貴方達は言いますけど。……。
余程、お気に入りだったのでしょう。…昼と無く…夜と無く。アイツは来た。…あの部屋でです。柳にとって、その為だけの部屋なんです。
俺は空いていた隣の部屋を借りました。だからって、何が出来る訳じゃ無いけど、もし、何か起きたら、いつでも行けると思って」

「だから、外に出なくて済む、株取引をしていた…」

「はい。…あの日、あの男は何故だか知らないが興奮していたようでした。…会社でいい事でもあったんですかね。今思えば、もしかしたら、また…、自分好みの社員を見付けたのかも知れなかったです。…いつも聞こえた事なんてなかったのに、あの日は…、声が聞こえて来たんです…。嫌な声だ。…聞きたくもない。
ほら、なお、もっと頑張れるだろって…。小さくてもはっきり聞こえて……言ってるアイツを想像して、…虫酸が走りました。……コイツ、何言ってんだ、ってね…。
もうとうに解放されている…有希の時の事も、…重なって頭を過ぎりました。同じような…、こんな事を言われて、…されていたんじゃないかって。いい加減こんな奴、死ねばいのにって思いました。俺は…」

握り締めた拳がプルプル震える。

…。…。…。

「…あの部屋には、元々布団くらいしかありませんでした。あとは本当に必要最低限の物です」

「それで?」

「…かなり時間が経った後でした。…長かったから。ドアが開け閉めされ、コツコツと駆け出す靴音がしたんです。アイツじゃ無かった。まさにヒールの音、女性の靴音だった。
静かになったので、俺は隣の部屋に行きました。
ナイフを持って」
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