雨を待ちわびて

「刑事さん、俺、まだ完璧じゃなかったんです。
まだ、あの社長の部屋から、DVDも写真も、…契約書も持ち出していなかったんです。あれを消してやらないと…。そんなモノはもう無いんだって言ってやらないと駄目なのに。
警察は、押収してしまうでしょ?そしたら保管されてしまう…。そうなったらもう無かった事にするのは無理だ。
貴方達は…仕事だから、証拠品として全て見るんでしょ?…。見ますよね?隅から隅まで。
…何度、辛い目に遭わされるんですか…。いくら仕事だとは言え、男の目に晒されるですよ…。どんな目で見るんですか…。
下衆な言葉が全く発せられないとは言えないでしょ?
俺はただの変質者として自供しますよ。精神鑑定なんて要求しません。普通の人間の普通の感情だ。
ただ人を殺して見たかったからだって言います。
…なんとかしてください、DVDも写真も」

「…そんなもんは端から無い」

「え?」

「不知火元、××会社社長、殺人容疑で連行する。署でまた話を聞くからな。
石井。…おい、石井。…何してる…石井!」

「…ぶわい」

「泣いてるのか?…しっかりしろ」

「ぶぁい。…はい。すみません」

「早島さんは、知っているんだな?」

「はい」

「そうか…。俺、人権派の最強の弁護士、知ってるから。…精神鑑定もしろ」

「え」

「多分、弁護士が勧めるだろうって事だよ。事情聴取は改めてする。聞かれた事以外、…余計な事は喋るな。
いいな?余計な事は絶対喋るな」

「は、い」

「じゃあ、行くか」

「はい」

「行くぞ、石井」

「…はい」

店を出た。

「あぁ。ヒールはわざわざこの為に買ったのか?」

「はい、流石にサイズの小さいヒールなんて、拷問です、履けませんから。ネットで買っておきました。そう言うと殺す準備をしてたってなりますね」

「いや、ナイフを買っていたっていうならだが…。ネットね。外に出ないオタクキャラだもんな。
見事に身についてたな」

「長くしていれば、ほぼそうなりますよ。もう、そんな人間に近いです。何の不自由もありませんでしたよ?」

もう、それすら…どこか病んでいた証拠かも知れないけど。
有希、ごめんな、収鑑されたら、もう…会えなくなるな…。俺はきっと一生出られない。
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