雨を待ちわびて
…ん。唇を重ねてきた。まるでファーストキスだ。

「こんな身体で良かったら…」

首に腕を回された。聞いてたのか?俺が言った事。別にお礼をしろと本気で言ったつもりじゃない。こんな事、出来る女なのか?

「おい、ちょっと、待て…」

ん…。…ん、ん。唇が触れては離れる。また触れる。ただ触れるだけ…それが妙に、誘うような…甘ったるい感触…。
これは…もう…理性崩壊の始まりだ。唇を奪い返しながら上になった。

「…いいのか…俺は、くれるっていうなら遠慮はしないぞ…」

どこの誰だか解らない相手……いいのか…。後で訴えられたら?
もう衝動は止まらない。シャツの中に手を入れ、背中に片腕を回し細い身体を強く引き寄せた。
直に触れる事は解っていた。
ん、はぁ…、ん。唇を首から落としていきながら、片手でシャツを捲りあげた。白い…綺麗な身体だ。悪いけどこの身体、既に見て知っている。短パン、ボクサーを脱がせた。俺のだ。…妙な感じだな。

「いいって言うなら、折角だから貰っとく。後で泣き言は無しだ。なんで自分から、…こんな、投げ出すような事を…する」

「…恐い人かと思ったら、ん、ぁ、優しい…人だったから。…いいの、私もう…」

「俺が優しい?……言われるまま………こんな事してるのに…最低だろ…」

誰でもいいって訳じゃないの…。この身体…誰かに上書きして欲しかった。消したいの。…貴方なら、消してくれるかもと思った。鋭くて、優しい貴方なら。壊れる程抱いてくれるかもって…。私はこの身体を壊してしまいたい…。だからいいの…。

「解らないな…、こんなの…。男がこんな場面で襲う事は、よく聞く話だ…。いきなり…どうぞって、提供されるなんてのは、あまり聞かない話だな…」

「……傘の向こうに見えた顔は、ん…冷たい人かと…ぁ、…はぁ、…思ったんです。でも、ちゃんと拾ってくれた、だから…優しい、人だって…ぁ、…ぁ」

だからと言って、これは…あまりに潔くないか。俺はあんたにとって素性の知れない男だぞ?…優しいだと?そんなの簡単に解るか…。
やってる俺も俺だけど。これは……罠か?どこかの組織の回し者か?…。

ん゙…。膝を掴み片足を身体に絡ませた。ん゙。すんなり受け入れ、た………んん、…ん?…この感じ…。これって既に…。男、居るだろ。そんな風には見えないが…これは…存分にシたってあとの身体だ…。どういう事だ…。逃げて来たのか。


「…翌日、被害者としてニュースとか出ちゃって、拾わなかった事…後悔してもな…。優しいとは違う。体面を気にしただけだ」

ぁ、…ぁ、ん…ゃ。でも…、ん、…この人、…燃えるように抱いてくれる。

「はぁ…お願い…はぁ、止めないで…」

ぁあっ…。エネルギーの、塊、みたい…。あ。……もっと。

「して…強く……し、て…お願、い…壊して…」

何だか…ゾクゾクする。普通じゃないのは解った。
小さく掠れた声で求めてくるこの言葉は、本当にこの女の口から発しているモノなんだろうか。
見た目の印象と反応が違うこの身体、…囚われそうだ。俺が熱にうかされてしまったのか。


「…名前は?」

「…まだ…ない…」

「は?…なんのつもりだ……猫か」

フ、我ながらくだらない。吾輩じゃなくて、だったら迷子の方の猫か?…。言いたくない、教えないつもりか。まあ、そういうもんだ。

「…貴方は?」

「…おまわりさんだ」

「…犬、…の?」

「フッ。いや、いくら何でも…人間だろ、本物の」

えっ、…。本物のおまわりさん?私…とんでもない人と……。
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