雨を待ちわびて
「こんにちは」
「あら、守田さん」
「あの、久遠先生は、どちらに」
「えっと…お仕事は…今朝上がられているから、そうね、きっと自宅じゃないかしら」
「あ、では、まだお休みになられているのですね」
「さあ、どうでしょう。そこまでは解らないけれど。そうですね…帰られて、未だ寝てるのかも知れないですね。昨夜ね、ちょっと大変だったらしいから。いつもより少しお疲れかも知れない」
…どうしようかな。私は特に困って来た訳じゃない。疲れているようなら、また別の日だっていいし。
…急を要する訳じゃ無い。
「事務長さん、私、今日は…。また改めます」
「あ、ちょっと待って、約束の日でしょ?少し電話、鳴らしてみましょうね」
「あ、でも」
睡眠中だったら、余計悪い。起こしてしまうと可哀相だ。
「今日、お約束していたのだから。来ていたのに帰したって…私が叱られてしまいます。ちょっと待っててね」
もう架けている。
…。
「鳴ってるけど、出ない…。余程、爆睡中かしらね。う〜ん、どうしましょう」
…。
「行ってみます?」
「え?」
「久遠先生の部屋に」
「ぇえ?」
「近いんですよ、ここから」
「…それは。お住まいは、教えては駄目だと思います。個人的な事ですし」
「そうよね…」
「留守電にはなりませんよね?」
「ええ」
「では、その番号にメールをさせてください。記憶はしませんのでいいですか?お借りしても」
「はい、どうぞ」
【守田です。お仕事、お疲れ様でした。また日を改めます。今日はゆっくりしてください】
これでいい。
携帯を返した。
「有難うございました。では、私は、これで帰ります」
「大丈夫?特に困った事は無いですか?」
「はい、大丈夫です。有難うございました。また今度来ます」
「はい、気をつけて帰ってくださいね」
病院の前の通り。バス停でバスを待っていた。
未だ、次のバスまで時間はかなりあった。
先生、昨夜、大変だったと事務長さんが言ってたけど。入院患者さんが暴れたりとか、あったのかな。
「守田さ〜ん!…も、…守、…守田さ〜ん」
え?
「は、い?」
…呼ばれた?
あ、先生〜?で、す、か?声は確かに久遠先生みたい…。
男の人が手を振り、走って来た。
「がっ、…はぁ、…はぁ。す、すみません、…はぁ、…間に合ったぁ…はぁ」
……誰?