雨を待ちわびて

「あの…」

「ぼ、僕です。はぁ、…久遠です。はぁ…」

「久遠先生、ですか?…やっぱり?」

「はぁ、はい。…はぁ」

久遠ですと言った男性は…髪の毛は無造作な感じで。Tシャツの上にカーディガンを羽織り、いや、羽織っているように見えたのは脱げかけているからで。
膝に手を乗せ、肩で息をしていた。

「はぁ…、はぁ、すみません。約束してあったのに…気を抜いて、寝過ぎました。…申し訳ありません。何とか、間に合って良かった」

言い終わると顔を上げた。

「あ…先生…」

眼鏡を掛けていないその顔は、よく見れば確かに見覚えのある顔だった。
いつもなら、ワックスで後ろに流すように整えられている髪も、今は少し寝癖がついているようにも見えた。

「やっぱり久遠先生だ…」

「…はい。もう、駄目?帰られますか?」

「あ、は、はい。バスが来たら帰ろうかと思って待っています」

「はぁ、本っ当、申し訳ない。電話が鳴ってるような気がして、夢かなって…だけど、ん?って思って、見たらメールが。…慌てました。わー、もう午後になってた!ってね。
時間さえよければ、少し話しませんか?折角来て頂いたのに、これでは無駄になってしまいます」

「あの、先生。事務長さんから伺いました。お疲れでしたら、このまま、未だ休んでください。私は特に…、今日は大丈夫ですから」

「いいえ。遅れたとはいえ、約束ですから。僕が悪いんですから」

「でも…」

「押し問答していても埒が明きません。取り敢えず、バスに乗るのは中止です」

「え?あっ」

何だかよく解らないうちに、手を取られ、歩き始めた。

「さあ、行きますよ」

え、どこへ?
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