雨を待ちわびて
「よお」
「あ、片霧さん、おはようございます。早かったですね」
「ん、家に居たからな。しかし、現場がこんな近くだとはな…」
「え、珍しい…。さては、雨だったから面倒臭くて飲みに行かなかったんですね。それに、…何だかいい匂いがしますよ?間違いなくアルコールの匂いじゃない…匂い……」
「風呂だ風呂。長風呂した。相変わらずテメェは…神経質と言うか、犬みたいに匂いにも敏感だな」
「お褒めの言葉だと、有り難く受け取っておきます」
「ふん、そっちこそ、一番乗りか?家、近かったっけ?お前が犯人なんじゃないのか?」
「そんな訳…」
「あるわけないさ。冗談に決まってるだろうが。虐められてるなんて言うなよ。真面目な話ばっかり出来るか。で、なんて言ってる?おっさん」
「あ、まだ詳しくは。害者の状態からして、昨夜の事じゃないかって。雨、ここら辺はずっと降ってたらしいので、目撃者は少ないかも知れませんね」
雨か…、確かに降ってたな。
「ところで、平気か?こんな酷い仏さん見て」
手を合わせる。こんなに酷い状態は滅多にあるもんじゃない。これからも無いに越したことはない。
命を絶っただけでは無い。それ以上の…制裁。
錆びた鉄に似た匂い。何度嗅いでも鼻に残る……血の匂いだ。
「あ、…もう、胃液も出ないです。既にしこたま、あっちで…」
口に手を当て、戻す真似をする。
「だろうな…。何も食ってなくても、朝一これはキツイ………酷いもんだ…」
マンションのゴミ集積所に、それはあった。
多分、週明けまでは見付かる事は無いんじゃないかと思ったのかも知れない。最初からここだったのか。
雑なのか、敢えてそうしたのか。コイツはゴミ同然だと、言いたかったのか…。
沢山の半透明のゴミ袋に紛れるように、それも袋に入っていたらしい。
発見者は何故見つけたかって?
そこに点々と僅かな赤い滲みが続いていたかららしい。
滲みは建物のこの中にだけある。恐らく、直ぐ外にも、似たような同じ滲みが続いていたんじゃないだろうか。
あったとするなら、雨が全てを流した、という事かも知れない。
「ここまで何とか逃げ込んで、最期がここだったのか。それとも、最初から、ここでなのか。…自分で傷付けたって可能性もあるのか。
遺体の口には粘着テープが貼られていました。ナイフが遺体と共に袋の中にありました」
「口は?袋の口はきっちり閉じられていたのか?」
「それが…」