雨を待ちわびて
「どうした…」
「第一発見者が、開けて終ったと」
「どんな風に閉じられていたか聞いたか?」
例えば、外からなのか、中からなのか。
「聞きました。聞きましたが、結ばれていた記憶はあるようなんですが、どんな結び方だったか、記憶が飛んだそうです。袋の中が血溜まりになっていて…それを見たショックでらしいです。…無理も無いでしょうが」
…可笑しいだろ。赤黒い血溜まりは外からだってはっきり解るはず。それより何より、人が入ってるって解っただろ。むしろ、開けて目に入って驚くのは、刻まれた腹の方の様子になんじゃないのか。それとも、ぶっ飛ぶ程のショックのせいで、つい口にしたのは、先に見た物だったって事か…。気が動転していたから、そう言ってしまった、と言うかも知れない。
「石井。その発見者はもう帰したのか?」
「はい。連絡先は聞いています」
「大丈夫なんだろうな?」
「はい、それは大丈夫かと。ここの住人ですから」
住人…。
「遺体の顔は、顔見知り、知った顔では無かったのか?そいつの名前は?部屋は?」
「知らない顔だと言ってました。まあ、遺体もここの住人だとしてもマンションですからね、顔を知っているかどうかは難しいでしょうね。それに、瞼を閉じた顔を知っているかと聞かれても、寝顔でも知ってない限り、難しいですよね。…えっと、それでですね…」
「どうした」
「それが…帰した後、部屋に行ったら留守のようで、…出ないんですよね」
「電話は?」
「それが…電話はでんわ。…なんて、ね。すみません、繋がりません…」
「…馬鹿か。何してる。それでよく大丈夫だと言えたな。返した後で居ないなんて。…解ってるな?」
「あ、はい。発見者を装った犯人の可能性だって…ある」
「ん。そうだ。それに純粋に発見者なら、犯行を見られたと思った犯人が、今頃……、始末された可能性だって…」
「ひっ。…はい」
フ、少し脅し過ぎたか。まだ何も解っていない。どんな可能性も、無い事ではない。それを言ったまでだ。
「とにかく。帰ったら捜査会議だ。本当に留守だったんだな?気配は感じられ無かったのか?
犯人かもしれないし、死んでるかも知れない。管理者に言って、先にその人物の確認を取るぞ。まずそれからだ。
発見者の名前は?」
「はい。えー、守田 直、29歳」
なお?
「男か?女か?」
はい、女性です。それが、かなりの美人でした。モデル並の」
「女?女がよく袋を開けたもんだ…」
遺体に対する好奇心か。外からの様子だけでも充分異様だっただろうに。開けて見たなんて…発狂しそうな程のモノだったろうに。……悲鳴も上げなかったのか?声も出ないほど腰が抜けたか。…下手物好きなのか…。
恐いもの見たさ…、残酷なモノに興味があるのか。
…アブノーマルか…サイコパスか…。
いずれにしろ、随分、肝の据わった女だな。
純粋に発見者だとするならば、だ。
「おい、急げ。マンションの管理者に連絡を」
「はい!」
居ないなら居ないで、部屋の中、確認させて貰うぞ。
不謹慎だが、はぁ…、久し振りにゾクゾクする事件だ。