雨を待ちわびて
-Ⅳ-先生と患者って訳じゃない?

「生憎と、珈琲か、紅茶しか無いのですが、アイスティーにしましょうか?」

「あ、はい。有難うございます」

「いいですね、守田さんは」

「え?」

「そんなぁ要りません、とか、お構い無くとか、他人行儀な事を言わないところがいい」

「あ…すみません。大概、遠慮してお断りしても、結局構われてしまいますから…つい」

「ハハハ、そうですよね?いいって言っても何かしら出されてしまいますからね、こうやって。
はい、では、どうぞ」

「すみません…有難うございます」

「こっち、来て見てください。ほら、育ってるでしょ?」

そこには白い鉢に植えられた、緑の葉っぱが繁った枝が二つあった。

「育て方はネットでも調べられるし、一つ、持って帰りますか?ね?」

「はい」

「では、忘れないように、玄関に出しておきましょう。帰る時は袋に入れますからね」

「はい。あ、先生、今日、眼鏡は?」

改めて見ても、掛けて無いだけでこんなに印象が変わるなんて、…解り辛かった。
眼鏡をしていれば、眼鏡に印象が偏り気味だという事なんだ。いかに人物を捉えてないかって事にもなる…。

「あぁ、ハハハ。今、裸眼だから、あまりはっきり見えてないんですけどね。仕事をしない普段は、コンタクトだったり、今みたいに、何もして無かったりなんです。だから、寝起きでしたし、実を言うと、守田さんだと見つけて確信するのは、至難のわざでした。
眼鏡もかけずそのまま飛び出してしまったので。無鉄砲ですよね。
帰ってしまうなら、バス停に居るだろうと、とにかく迷わず走りましたよ。
そして、掴まえました」

「お仕事の時は眼鏡なんですよね」

「んん…、変身アイテムみたいな物です。眼鏡を掛けたら先生、みたいな」

「毎日、変身〜、ですか?」

「はい。変身〜、とおー!!です」

「フフ、面白いです」

「俺は、…面白くないです」

そうだ、真面目な仕事なんだもんね。安易な事を言って…不謹慎だった。

「切り替えみたいな物ですよね?」

「そうですね。先生の僕と、プライベートの俺の」
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