雨を待ちわびて
「カランコエの鉢、持って帰りますか?」
「はい?」
「僕の部屋、近いんです」
「は、い」
近いと聞いた。
「根も張って来たようです。葉っぱも元気ですから」
「は、い」
「おうちで育てると、毎日、張り合いが出来ますよ?蕾が付く楽しみも、枝が増えて葉が育つのも、見てると元気になりますよ?」
「はい、…あの、先生?」
「はい?」
「手を…」
「あっ、ぁあ゙っ!すみません。…何だか勢いで。引き留めなきゃ、連れて来なきゃ、って思ったら、つい、出来心?です」
「大丈夫です」
ん?…出来心?
「あ、そこなんですよ」
比較的新しい建物が見えて来た。
「単身者ばかりが入っているマンションなんです」
…。
今だに手は繋がれたままで、さあどうぞ、と案内され、もう玄関先まで来ていた。
「久遠先生、あの…」
「ああ。抵抗あります?」
…。無いとは言えない。
「ちょっと、待ってくださいね」
先生はドアを開けて部屋に入ると、カラカラとサッシを開け放している。
「ごらんの通り、ワンルームです。玄関も…、こうして…、開けておきますから、どうぞ?」
ドアを大きく開け、ストッパーで止めた。
玄関からベランダ迄、見通せる状態。
…だからって、それでいいって事も無いんだけど。
どうしようかな…。心配がある訳では無いけど。
長く躊躇っているのも変だし、…。
「何も心配要りませんよ?僕は…休日とはいえ、医者ですから。こう言っても信用にはならないでしょうが、理性の塊です」
そう言って笑った。
…。
「はい、では失礼します」
先生は頷いた。
「はい、どうぞ」