雨を待ちわびて

帰って来た直が、妙に…俺の知らない直だったんだ。
俺が居る事に驚いた様子だったけど、…まあ、それは仕様が無い。いつも居ない奴が居たんだから。

…なんだろうな。他所行きの顔とでも言うのか。
あんな顔をしてる直も居るんだと思った。…少しずつ、戻っているという事だろう。
病院に行く日だった。色々とハプニングがあったようだし、…それもいい刺激になったか。
誰とであろうと、人と接触して、話をする事は社会的に必要な事だ。
ぼちぼち仕事をしてみるのもいいかも知れない。
能力は充分あるのだから。

ただ、知らない人の中で、不意に傷付く事に出合うかも知れない。それが不安材料なだけだ。
…駄目なら駄目で、その時また落ち込んで、また回復してを繰り返すしかない。自分で強くならないとな。
誰と一緒に居たって、人はみんな一人なんだからな。
…直。強くなれ。


「戻りました〜」

「…おぅ」

「変わりないですか?」

「ああ」

「本当に見張ってました?」

「は?見てるだろうが」

「目では見てても、心は隙だらけですよ?」

「はぁ?石井…最近、俺に当たりが強くないか?」

「いいえ?人間観察ですよ。最近の片霧さんは人間らしいですから。とても興味深い対象者です」

「俺を見て、犯罪者心理のお勉強か…」

「それとは違いますが、無いとは言い切れませんね。誰しも、突然、犯罪者になり得ますから」

「ああ、まあな。悪い、珈琲くれるか」

「はい。…片霧さん、俺…」

カチ。

「なんだ…」

珈琲を口に含む。

「俺、…直さんに。…直さんに興味があります」

…。

ゴク。ブーッ!

「汚いなー、…もう。飲むのか吹くのか…飲むだけにしてくださいよね…」

「ちょっとだろ。それより、今の、どういう事だ…」

「そういう事です。言ったまんまですよ?」

「石井、…てめぇ。今度は被害者心理の対象としてって、思ってんじゃ無いだろうな。そんな興味本意で直に近付こうとしたら…。
いいか?もう、ほじくり返して傷付けるんじゃないぞ?…解ってるよな?
…殺さず、死ぬほどぶっ叩くぞ。それとも、なにか…好きなのか…」

「もう…、いい加減にしてくださいよ。僕は片霧さんの反応を見ようとしただけです。…もの凄く動揺しちゃって。
確かに直さんは、僕なんかからしたら、大人の魅力がありますけど…。
んん、片霧さん」

「フン……なんだ」

「今後、直さんは片霧さんの弱みになると言う事です」

「解ってる。だからマンションを変えるんだ」

「はい。今は幸い、出所して来た者もいませんし、追い掛けているヤマで逆恨みされる対象もいません」

「…」

「でも、捜一の刑事でいる以上、それは一生つき纏う問題ですよね。いっそ、官舎の方が安全じゃないですかね…直さんの事を思ったら…」

「直の事は俺が守るって約束だ。それ以上もそれ以下も無い。…俺は善くも悪くも刑事だ。
だから、官舎に入るような関係性にはならない」

「…そんな。そうなんですか…。じゃあ、僕が偽装結婚して官舎に住みましょうか?」

「は?石井。てめぇ…やっぱり直の事好きなんじゃないか」

「もう、落ち着いてくださいって。偽装だって言ってるでしょ?」

「そんなのは何とでも言える。言葉の裏に隠せるだろうが」

「…鋭いなぁ」

「はあ?…やっぱりか」

「違います。そうですねって、有り得るなって、例え話の一つです」

…。

「…まあ、いい」

官舎なんかに住んで見ろ。奥さんは、上下関係、派閥の犠牲じゃないか。
そんなとこに住まわせられるかってんだ。
< 80 / 145 >

この作品をシェア

pagetop