雨を待ちわびて
「石井、悪かったな」
「あ、片霧さん、お帰りなさい」
「どうだ、変わり無いか」
「はい、今日は動かないかも知れませんね。普通に落ち着いてご飯食べてました」
「…女も一緒か」
「はい。いえ…出掛けました」
「…」
容疑者の住む向かいの空き部屋を借りている。カーテンの隙間から様子を覗き見る。こっちの部屋の明かりは点けられない。
石井と小さい明かりだけの薄暗闇の中で二人きりだ。
「それより、どうでした?マンションの話。決まりそうですか?
あれ、でも早くないですか、戻るの」
「ん?…まだ、解んねえよ」
「そうですか」
…。
「こっちの間取りがいいとか、玄関のある場所はこっちがいいとか、日当たりはどうだとか、色々と話しましたか?」
「いいや…」
「え?もう…、何やってんですか…。そういう事、二人で話しながら決めるのが、女性は嬉しくて、楽しいんじゃないですか」
「俺が勝手に決めるって言ってあったから…。取り敢えず、どっちでもいいから、好きにしろって言った」
「あ〜ぁ、…はぁ。それ、酷いですよ、可哀相です。…そんなんだから、万年、彼女も奥さんも出来ないんですよ。直さん、あれこれ話したかったでしょうに…。
片霧さんは言葉が足りな過ぎます。面倒臭がってたら、人を好きになんてなれませんよ?…ゆっくりして来て構わないって言ったのに」
「アホ。てめぇは恋愛マスターか。仕事中だろうが。
こっちが本分だろ、本分。いつも言う癖に」
「そうですけどね。…片霧さんも、見取り図眺めて嬉しそうだったし。時間が取れる時も中々無いですから。
今日はいい機会だったと思ったんですけどね」
「居なかったんだ」
「え?」
「ま、メールは来てたけど。帰っては見たけど、未だ直は帰って無かったんだ。だから、ある程度待って見た」
「こっちにこんなに早く戻って来たんですから、大して待った時間も長く無かったって事でしょ?」
「…当てなく待ってるなんて、長い、…苛々する」
本当は違う意味で苛々してるんだけど。
「でも、そんなには待たない内に帰って来たんでしょ?
待つって…、普通の事じゃないですか。
家庭の…、刑事の奥さんとか、当てなく待ってるんですよ?ほぼ毎日。更に、危険な目に遭って無いかって、いつも心配してるんです。ちょっと待ったくらいでなんですか。
片霧さんの事だから、…マンションの話は、それこそ、俺が決めるからって其方退けで。…したい事…、シてくるのかと思ってました。僕の方こそ、長引く覚悟で待ってたのに」
ボスッ。
「ぁ…痛っ!」
「直は性処理の対象じゃないんだ。馬鹿か石井。殺すぞ」
「ち、違いますよ。誤解です。そんな意味じゃないです!勘違いしないでください。
そうじゃなくて…、それ程、直さんの事、好きでしょって言いたかったんですっ!…痛ぁ」
「何をお前が向きになってる」
「片霧さんが鈍いからでしょ?…好きなくせに。認めないからですよ」
「あ゙?」
「…なんでも無いです。…いいですよ、もう…。
…痛いなぁもう…」
フ…。俺だってな、帰って来た直を見た途端、欲しくなったけど、我慢したんだよ。堪らず唇だけ頂いて来たけどな。
余計落ち着かなくなったから、…苛々してるんだ。なまじ触れたばっかりに。しなけりゃ良かった。…くそ〜。
「石井、朝までか?」
「え?…も〜、そうじゃないですか。交替が来たら、…朝、解放です」
「石井、飯食って来い」
「…じゃあコンビニ行って来ますよ。…片霧さんは?」
「ああ、悪い、適当に何か頼む」
「解りました。もう…本当に…ドッチも食べて来なかったんですね…」
「…あ゙…煩い!…いいから早く行け」
「はいはい。…早く帰れるといいですね?」
「……」
「あ、煙草も買って来ましょうか?」
「…ん、悪い…あと珈琲も頼む」
「そんなの解ってますよ。行ってきます」