ロストマーブルズ
 そこには自分の母親、サクラを真ん中に挟んで、ジョーイの父親、そしてもう一人見知らぬ男性が笑顔で写っていた。
 写真は古ぼけているが、その中の三人は若々しく、学生のようだった。

「大学時代の写真だろうか。ダディと母さんが一緒に写ってるのは分かるが、もう一人のこの男は誰だ? なぜこの写真を隠すようにここに飾っていたんだろう。母さんの若き忘れられない思い出でもあるのだろうか」

 思わず口をついてしまったが、これについてはそんなに根深く疑問に思うこともなかった。

 家の爆発の事故以来、過去の産物も吹っ飛び、唯一残った写真があるとしたら大切にしたいという思いはジョーイにも理解できた。

 それが青春時代のものなら隠すように飾っていてもおかしくもない。

 初めて見る写真。
 若かりし頃の両親の姿を暫くじっと見つめていた。
 そして視線は見知らぬ男へと移る。

 その男は髪も髭も長く、色的にもライオンのような鬣(たてがみ)に見えた。

 サングラスを掛けているので、はっきりした顔はわからないが、がっしりとした体躯でかっこいいワイルドな魅力ではあった。

 その反対側の父親は対照的に誠実で真面目腐った堅物に見える。

 ジョーイの目は寂しげにそれを捉えていた。

「そういえば、俺のダディってこんな顔だったな。ずっと見てなかったから忘れてた。俺に会いたいとも思わず、一体どこで何をしているのやら」

 ジョーイ自身も今更会っても何も言うこともないと、次第に冷めた目つきに変わっていった。

 ジョーイの記憶には、泣いていた母親に気遣うこともなく、黙って去っていった父親の後姿が残っていた。
 子供心ながら何か重大なことがあったと感づいていたが、あのとき母親が見せた悲しい表情が離婚を物語っていたのだろうと思う。

 そして自分たちは捨てられた──。
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