ロストマーブルズ
 トニーが夕飯の後片付けをしているときだった。
 部屋に突然電話が鳴り響く。
 ソファーでテレビを見ながら寛いでいたジョーイは、面倒くさそうに立ち上がり、テレビに視線が向いたまま、電話の受話器を取った。

 どうせまた母親からだと思い込み、けだるい声で「もしもし」と言った。

「(ヨッ、どうだ大豆の謎は解けたか?)」

 電話の向こうのぶっきらぼうな言い方で、体がはっとした。

 名前を告げなくても、それがギーだとすぐに分かる。

 それと同時に心臓が高鳴り、こめかみがうずくようにドクドクと血が流れ出した。

 すでにギーが要注意人物だと、体で感じていた。

 本当はどうして電話番号を知っているのか、なぜしつこく付きまとうのか、問い質したいが、このことを外部には知られてはいけないと本能が察知し、トニーをさりげなく一瞥する。

 トニーは後姿を向け、皿洗いをしている最中で、ジョーイの行動にまだ気がついていなかった。

 ジョーイはくるっと背を向け、ただ耳を澄ましていた。

「(なんだ、急に黙り込んで。そうかまだ謎が解けないもんだから悔しいのか。まあいい。それならもっとヒントをやってもいいんだぞ。明日学校が終わったら会わないか)」

 ギーからの誘い。
 ふざけるなとでも言って断るべきなのか。
 しかし家にまで電話を掛けてくるということは、知らずと身辺を調べ上げられている。
 どうせまた何度も誘ってくると判断すると、ジョーイの口から投げやりに「OK」と返事をしていた。

「(場所は明日なんらかの方法で知らせる。こっちも色んなリスクがあるもんで、君と接触するのは注意が必要なんだ。明日使いを差し向ける。頭のいい君のことだ。すぐに俺からの連絡だっていうことがわかるさ。それじゃな)」

 電話は用件を伝えるとすぐに切れた。

 ジョーイは、ギーの傲慢な態度にイラつきながらもそっと受話器を置く。

「なんだ、サクラからの電話だったのか?」

 タオルで手を拭きながら、トニーが話しかけてきた。

 ジョーイはできるだけ怪しまれないように、それらしき嘘を咄嗟に思い浮かべた。
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