ロストマーブルズ
 駅前の人通りの激しい場所なために、側を通る人々は二人をちらりと横目で見ながら歩いていく。

 自分達の世界に入り込んでいる仲睦ましい若いカップル。

 見るものには初々しく映っていたかもしれない。

 そして駅の周辺にいた一人は、複雑な思いを抱きながら、その若いカップルを見ていた──リルだった。

 友達の付き合いで寄っていた店から出た瞬間、その光景がすぐに目に飛び込んだ。

 ジョーイと見詰め合う女の子の存在に、リルの心は穏やかではなかった。

 リルは感情に導かれるまま、二人に近づいて行く。

「ジョーイ」

 自分の名前を呼ばれ、ジョーイは現実に引き戻された。

 我に返った時、キノを通してアスカを感じていた事がありえないと、面食らっていた。

 その戸惑った中に、無愛想なリルまでが視界に入ってきた。
 リルはキノを敵視して睨みつけ、一層きつい顔になっている。

 また足元でビー玉が転がった錯覚を覚えた。

「ジョーイ、あれから具合は大丈夫なの?」

 前日まではまだ『さん』付けだった。それが呼び捨てに変わっている。
 リルのジョーイに対する気持ちの変化がそれだけで感じられた。
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