ロストマーブルズ
「やだ、キノちゃん。神から与えられた真の美しさはキノちゃんだよ。キノちゃん、その眼鏡外して自分を見てごらん。キノちゃんはもっと自信持つべき」

「私は普通に生まれてきたかった……」

 キノは少し涙声のようにかすれて小さく呟いた。

「キノちゃんどうしたの?」

「おい、詩織、もういい加減にしろ。どうしてそう脳天気なんだ。あのな、俺達ハーフと呼ばれるものにはそれなりの悩みってものがあるんだよ。空気読め」

 ジョーイは飲み物のカップを持ち、ストローから一気に吸い上げた。
 最後にズズーと音がなるとそれを乱暴に置く。

 詩織はまたジョーイを怒らせてしまったと思ったが、その原因がよくわからないでいた。
 気まずい思いを抱きながら、静かに残りのハンバーガーを食べだした。

 その後は容姿のことには触れなかったが、どこかギクシャクしてしまい、しらけたムードのまま店を出た。

「キノちゃん、もし私のせいで嫌な思いさせてしまったらごめんね」

 詩織はなんとか取り繕うと素直に謝った。

「ううん、詩織さんは何も悪くない。私の方が雰囲気壊しちゃってごめんなさい」
「キノちゃん、なんて健気なの」

 詩織は感動したかのようにキノに抱きついた。

 キノは突然のことに当惑しながらも、それでも何かと構ってくれる詩織の優しさは心地よかった。

 詩織の裏表ない素直なところをまた見せられ、ジョーイも口には出さないもののこういう部分は好感を持てると、側で黙って見ていた。

 その後は詩織と別れて、またジョーイはキノと二人で駅のホームに向かう。

 二人っきりになることにはすでに慣れていたが、また会話の糸がプツリときれてお互い静かだった。

 電車を待っているとき、キノが遠くを見つめるような目をして独り言を呟くようにジョーイに話しかけた。
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