ロストマーブルズ

 キノと会えないかもしれない突然の状況に、ジョーイは絶望していた。

 嘘だと思いたいが、ノアならアメリカへ連れて帰る事も容易いことだろう。

 自分の力ではどうする事もできない無力さに、ジョーイは打ちひしがれた。

「桐生ジョーイ、たるんでるぞ。前に出てこの問題を解いてみろ」

 突然当てられ、ジョーイは我に返り、思いつめたまま立ち上がった。

 数学の授業は退屈で、この先生とも相性が悪く、いつも目の敵にされる。

 黒板の問題を見つめ、暫し無言になっていた。

「さすがのお前でも、この問題は難しかったか」

 授業態度の悪い自分のためだけに、わざと難しい問題を選んで黒板に書いたのだろう。

「答えられないのなら、そのまま立っておけ」

 先生は、嘲笑いながら得意になっていた。

 ジョーイは黒板に向かい、チョークを手にすると、すぐさまその問題を解きだした。

 黒板に殴り書きをする音が、静かな教室一杯に広がった。

 ことりとチョークを置いて、手をはたきながら自分の席に戻り、ドサッと座り込んだ。

 先生は持っていた本と何度も見比べ、声を詰まらせていた。

「よし、今日のところは良くできたみたいだな…… そしたら次、行くぞ」

 バツが悪いように、荒々しく黒板けしを振り上げ消していく。

 ジョーイは正解しても嬉しくともなんともなかった。

 数字や計算は見れば、すぐに答えが導き出される。

 今迄、得意なことくらいにしか思わなかったが、この時、重く圧し掛かっていた。

 遺伝子操作──。

 ジョーイは自分の手のひらを見つめ、何度も握ったり開いたりしていた。
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