ロストマーブルズ
「(言う、言うから、包丁をトニーから離してくれ)」

「(最初から言うこと聞いてたらこんなことにならなかったんだよ)」

 包丁がトニーから離れ、ギーの気が一瞬緩んだ時、ジョーイは尽かさず息を吸い込んで声を上げた。

「ツクモ! シックレッグス!」

「(何を言ってるんだ?)」

 ギーが声を出したと同時に、ジョーイの隣を猛スピードですり抜けて、ツクモがギーに飛び掛った。

 突然のことにギーは意表をつかれ、持っていた包丁を落としてしまった。

 そして、ツクモに容赦なく噛みつかれていた。

 その隙にジョーイは包丁を拾い上げ、トニーの縛られていた両手、両足を解放した。

「大丈夫か、トニー」

 最後にびりびりと口のガムテープを外すと、トニーは思いっきり空気を吸った。

「サンキュー、ジョーイ」

 二人は一先ず難を乗り越えほっとした。

 ギーに視線を向ければ、ツクモに押さえつけられて、床で悲鳴を上げながらバタバタと格闘していた。
 噛みつかれて服は破れ、血も出ていた。

 ツクモは牙をむき出しに、悪魔が乗り移ったように恐ろしい唸り声を上げ、容赦なく攻撃していた。

 ギーが英語の放送禁止用語を用いて叫んでいる。

「これはセンサーの『ピー』がいるな」

 トニーはいい気味だと笑っていた。
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