ロストマーブルズ
 ツクモは部屋の隅で大人しく伏せていた。

 時々耳を動かし愛らしい瞳で周りを見ている。

 ある捜査員がツクモの前にしゃがんで頭を撫ぜていた。

「なんかこの犬、コンビニ強盗で出てきた犬に似てるな」

 ツクモはむくっと立ち上がり、尻尾を振ってその捜査官に甘え出した。

「かわいい、いい犬ですね」

 ジョーイにそう言ってまた持ち場に戻って行った。

「ツクモ」

 ジョーイの声に反応し、ツクモは側に寄った。

 かしこまって座り、ジョーイの顔を見上げている。

 先ほど勇敢にギーに立ち向かったツクモの恐ろしい形相とは程遠い、穏やかであどけなく甘えた表情だった。

 一般に穏やかな性格として知られているラブラドールレトリバーが、あんなに怒り狂った表情をすることがジョーイには信じられなかった。

 そして忠実に命令を聞く姿勢も、その状況と言葉を理解して行動しているように思えてならなかった。

「ツクモ、お前もしかしてアレなのか?」

 ツクモもまた人間の役に立つように、遺伝子操作されているのではとジョーイは感じていた。

 でも知ったところでどうでもいいと、すぐに笑顔を見せて、優しくツクモの耳の後ろを撫ぜてやった。

 ツクモは目を細めて喜んでいる。

 キノもこんな風にしてかわいがっていたのだろうと、ジョーイはキノの姿を思い浮かべていた。
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