ロストマーブルズ
 スーツケースが外に顔を出すと、見計らってタクシーのトランクが開くポンという音が聞こえる。

 ジョーイがトランクを開け、スーツケースを入れた。
 その後は強くトランクの蓋を締め、わざとらしく手をパンパンとはたく。

 母親はアタックするかのようにジョーイを羽交い絞めに抱きしめる。

 がっしりとした体躯、身長も越されてすっかり成長した息子に改めて気がついた気分だった。

「おい、やめてくれよ」

 嫌そうな顔を装うが、本当は母親の急な出張に少しは心配なのかジョーイも抵抗することなく大人しくしていた。

「じゃ、行って来るね」

 母親がタクシーの後部座席に乗り込むが、ふと動きを止めて急にシリアスになりジョーイを振り返る。

「ジョーイ、くれぐれもトニーに女の子連れ込むなって釘を刺しといてね。パーティは絶対禁止だから。あなたもね」

「トニーと一緒にするなよ。わかってるから。とにかく母さんも気をつけてな。土産忘れるなよ」

 母親はジョーイを信じきっている笑顔を見せた。
 そしてドアが閉まると、タクシーはすぐに動き出した。

 最後までジョーイはその車を目で追い、見えなくなると目まぐるしい出来事に疲れがどっと湧いてきた。

 深いため息が自然に洩れた後、猫背のように体が丸くなり、ゆっくりと家の中に入っていく。

 母親が暫くいないと思うと静寂さがしみじみと寂しくさせる。

 いい年して恥ずかしくなり、静けさを打ち破るようにエヘンと喉をならすと、急激に渇きを覚え、キッチンに向かった。
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