ロストマーブルズ
 ダイニングのテーブルの上に白い封筒と素っ気無い箇条書きのようなメモが目に入る。

『急に出張が入った。1週間分の食事代。無駄使いしないように』

「あの人らしい」

 なんだか笑えてきた。

 封筒を手に取って中身を調べると3万円が入っていた。
 贅沢しなければ一週間の食事代としては余裕の金額だ。
 その封筒をまた無造作にテーブルに放り投げる。

 まあ、なんとかなるだろうとその時は軽く考えていた。

 冷蔵庫を開け、中から冷えた飲み物を取り出し、それを持ってリビングルームのソファーに座り込んだ。

 なんだか疲れたとばかりに、ボトルのキャップを外しゴクゴクと飲み物を喉に流し込む。

 落ち着いたところで、静まり返った部屋をおぼろげに見ながらジョーイは丸いものがコロコロと床を転がっているイメージを抱いていた。

 キノが転がしたビー玉だった。

 そのイメージはいつしかテレビ番組で観たピタゴラ装置ともいうのか、計算されていくつかの仕掛けを作動させながら転がり続け、途切れることなくゴールに向かうビー玉を思い出させる。

 自分自身の中でも同じように次々と反応して、何かが動き出したように思えた。

 最後にどのような結果が待っているのか。
 いいことなのか悪いことなのか。

 ただ気分は落ち着かない胸騒ぎを覚える。

「ビー玉…… そしてキノ。それから I lost my marblesか…… アスカはあの時失くしたと言ったビー玉見つけたんだろうか。それに俺はアスカと一体何をしていたんだ。ビー玉、ビー玉…… コロコロ、コロコロ、転がり続けろ。そのうち俺の記憶も溢れ出る。ビー玉、ビー玉、失くしたビー玉よ出て来い」

 ブツブツと意味もなくジョーイは呪文を唱えるように呟いていた。

 一気に残りの飲み物を飲み干すと、ジョーイはテーブルに置いていた封筒をまた掴み、中から1万円を抜いた。
 そして普段着に着替えて買い物に繰り出す。

 行き先はもう決まっていた。
 駅前のスーパー。
 もしかしたらキノに会うかもしれないことを期待して──
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