ロストマーブルズ
 トニーはすれ違う人、特に女性に声を掛け、盲導犬を連れた女の子を見なかったかと訊ねていた。

 歩道橋や信号、曲がり角もあり、真っ直ぐ向かったとは考えられずジョーイはまたやられたという気持ちを抱く。

 行動が突拍子もなく逃げ足が速い。

 キノという存在が、益々ジョーイの中で色濃くなるばかりだった。

「ジョーイ、だめだ、諦めよう」

 後ろからトニーが呼んだ。

 ジョーイはすっきりとしないまま、トニーの側に行き、お手上げのように肩をすぼめたジェスチャーを見せた。

「また明日、学校で見つけて聞けばいい。同じ町に住んでるのなら朝、電車で会えるかもしれないしさ」

「そうだな」

 ジョーイはトニーの言葉に納得してコクリと頷いた。

 これで堂々と声をかけられる口実ができたと思うと、少し気が晴れた。

「それより、腹減った。ランチまだだった。もう3時じゃないか。これじゃ夕飯になっちまうな。サクラは今日何を作る予定だ?」

「あっ、そうだ。母さん、さっき出張でニューヨークに行ったんだった。一週間戻らないって」

「えっ、それほんとか」

 トニーは意味ありげに白い歯を見せてニタついた。

 ジョーイは何を考えているかすぐ読めて、瞬時に釘を刺す。

「おい、パーティも女も禁止だから、あまり露骨に喜ぶな」

「堅いこというなよ。なあ、折角のチャンスだ。ここはちょっと楽しもうぜ」

「絶対にだめだ。変なこと企んでいたら容赦なく出て行ってもらうから」

「ちぇっ、ほんとに堅物だな。というより、母親のいいなりのマザコンか」

 なんとでも言えと、ジョーイはプイと横向いて、それ以上何も言わなかった。
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