ロストマーブルズ
 トニーはジョーイを怒らすことだけは避けたく、ズボンのポケットに手を突っ込み、面白くないと言いたげな目つきを向けながらも、大人しく言うことを聞くことにした。

 二人は肩を並べて無言で暫く歩く。

 そしてまたコンビニの前にやってきた。

 警察官の姿はそこにはなかったが、代わりにどこでネタを嗅ぎ付けたのか、ローカルな放送局のロゴがついたテレビカメラを抱えたマスコミが、駆けつけていた。

「今夜のニュースで詳しいことがわかるかもな」

 トニーが先ほどの言い合いは、忘れたと言わんばかりにポツリと洩らす。

 「ああ、そうだな」と、ジョーイはコンビニの中を見渡しながら歩いていた。


 駅前のスーパーの前を通ると、ジョーイが顎を突き出して一振りし、「中に入るぞと」トニーを誘う。

 ジョーイがカゴを持ち、トニーは家来のようにただ後ろをお供するだけだった。

 ジョーイは適当に食べたいものを手に持ち、トニーに形式的に意見を求めるが、携帯電話をいじくって上の空のトニーは、適当に「OK」となんでも軽く相槌をうっていた。

 魚売り場に足を運ぶと、生け簀の水槽があり、魚が泳いでいた。

 小さな男の子がそれを眺め、魚の数を指で追って数えていた。

 動き回る魚に手こずり、なかなか満足いくように数えられないでいる。

 ジョーイは生け簀をチラッと見て、そして子供の側を通り、さりげなく21匹と呟いた。
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