ロストマーブルズ
 この日、あの夢を見たことでジョーイの心のバランスが崩れ、次々と要らぬ感情を抱く羽目となっていった。

 自分らしくないと分かっていながらも、構内を歩く時キノの姿を無意識に探していた。

 学年が違えば会う機会も少ない。
 あとは放課後また帰りが同じになるのを期待するしかなかった。

 新学期の始まりは、自己紹介や授業の方針の説明など、本格的に勉強する雰囲気はまだ皆無に等しかったが、三年生となると、お気楽さが軽減する。

 進路が関係してくるため、何をやりたいのかしっかりと見極めて進学を決めろと、どの先生も受験を匂わせたメッセージを送っていた。

 ジョーイは全く何をやりたいのかイメージすら浮かんでこない。

 本人のやる気と意思とは裏腹に、成績だけはどの難関大学も目指せるほどのレベルだというのに──。

 希望する大学に入りたいと熱望し、努力する学生がいる傍らで、ジョーイは望んでなくても世界トップレベルの大学に喜んで迎えられそうだった。

 学校の授業は電卓で計算するようなものに思え、授業態度は覇気がなくいつも冷めていた。
 やるせなく、空虚に満ちた学校生活。
 この日もいつもの繰り返しのごとく、時間だけが過ぎていった。

 今夜の夕食の事を考えながら帰り支度をしていた時、トニーが声を掛けてきた。

「よっ、ジョーイ。俺これから眞子ちゃんに会いに行くんだけど、お前もいくか?」

「眞子ちゃんって誰だよ」

「インターナショナルじゃない方の一般生徒の一年生のクラスを主に受け持ってる英語の先生。英会話クラブの顧問もしてて、俺ゲスト出演頼まれちゃった」

「ちゃん付けで呼ぶほどいつの間に親しくなったんだよ」

「いや、まだ会ったことないんだけど、昼休みシアーズに声かけられただろ。あれ英会話のボランティアの話だった。英会話レッスンを手伝ってくれるネイティブな発音する生徒はいないかってシーアズが眞子ちゃんに持ちかけられて俺が選ばれたということだ。はっははは」

 トニーは得意げになっていた。

「俺は遠慮しとくよ。声かけられてないし」

「そう、卑屈になるな。まあシアーズもジョーイだけじゃなく、他の生徒には声を掛けにくかったんだろう。その点俺はこういうの得意っていうのか、天性というのか、適役ってことだ」

「いいから、さっさと行けよ」

 ジョーイがしっしと追い払うようなジェスチャーを交えると、トニーはスキップ交じりで教室を出て行った。

 呆れて椅子に座ったまま大きくため息を吐いたジョーイだったが、その直後突然がばっと立ち上がった。

 ジョーイにもやるべき事があった。

 ──アイツを探さないと!
 
 キノの事だった。

 突然に火がついたように、慌てて教室を出て行った。
 それはジョーイにはとても珍しい行動だった。
< 71 / 320 >

この作品をシェア

pagetop