ロストマーブルズ
「いえ、気にしないで下さい。慣れてますから。あのっ」

「ん? 他に何か」

「あなたも何か辛い事を抱えて、やっぱり人から違う目で見られていたりすることってありますか?」

「えっ?」

 ジョーイは振り返り、その目は驚きで見開いていた。
 まさに自分が抱えている問題を言い当てられた。

「余計なこと言ってごめんなさい。なんか自分とオーバーラップして。つい口から出てしまいました」

 虚ろだった目から、子犬のような不安の目で悲しげにジョーイを見つめる。

「別に気にしてない。でも君は何か辛いことでもあるのかい?」

「あると言えばありますけど、みんな何かしら悩みを抱えていますもんね。すみません。変なこと聞いて。私、飛鳥リルっていいます。よかったらあなたのお名前聞いていもいいですか」

「えっ、アスカ…… リル」

 ジョーイは一瞬声を失った。
 アスカという響きがこの上なく体を揺さぶられる。

「どうかしましたか?」

「いや、俺は桐生ジョーイ」

「ジョーイ…… さん? もしかして英語話せます?」

「ああ、一応は。生まれはアメリカだ」

「そうだったんですか。じゃあバイリンガルか」

 急にリルの顔が暗くなった。
 がっかりしているというのか、虚しくふーっと息を漏らしていた。
 何かを言わなければならないと思い、ジョーイは慌てて質問を返した。

「アスカ…… さんは?」

「リルでいいです。飛鳥という苗字はあまり好きじゃないんです」

「どうして?」

「私の名前、苗字がファーストネームに聞こえるでしょ。それで私の下の名前をアスカだって思う人がいて、それが嫌なんです」

 ジョーイは益々アスカという響きに動揺していた。
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