ロストマーブルズ
 店内は適度に客が入って、まばらに人が散らばっていた。
 レジはアルバイトの女の子が任され、店長らしき男性は奥のドリンク売り場で補充をしていた。

 ちょうど店長がしゃがんでいたとき、二人の影が店長の手元を覆った。

 顔を上げた店長は、そこに外国人がいたので少し動揺するが、すくっと立ち上がり、立場をわきまえて笑顔を向けて接客しだした。

「えーっと、何かお探しですか?」

 店長は中肉中背で温和な雰囲気を持っていたので、声が掛け易かった。
 トニーも人懐こい笑顔を見せたことで店長も安心したのか、前日の事件のことを訊いてもいやな顔せず話してくれた。

「あれはびっくりしましてね。でもなぜか犬が突然犯人を襲ったのでお陰で私も隙をついて取り押さえることができました」

「サングラスを掛けた女の子のこと覚えてませんか?」

 トニーが聞いた。

「ああ、覚えてます。詳しくはわからないんですが、多分目の不自由な方だったんじゃないでしょうか。あの犬も盲導犬と思ったんですけど、運悪く強盗がいるときに入って来たために、強盗も来るなと叫んだんですよ。彼女は多分何が起こったんだかわからなくて怯えたんだと思います。それで犬のリードを手放してしまったんでしょうね。そして、犬の名前を必死に叫んでました。犬もそれで異変を感じて、パニックを起こしてああなっちゃったんじゃないでしょうか。結果的にはすごく助かりましたけど」

 トニーもジョーイも店長の話をおとなしく聞いていたが、確信するようにお互い顔を見合わせて合図を打っていた。

「それで、彼女は犬をなんと呼んでましたか」

「えっと、なんか目の手術の名前みたいな。レーシック? いや、ちょっと違うな。あっ、そうだシックレー、シックレーって感じに聞こえました」

「シックレー?」

「何度もそう呼んでたら、犬が強盗の足を噛んだんです」

 二人ははっとした。
 知りたいことがわかったとばかりに、二人は丁寧に礼をいい、目の前のペットボトルのドリンクを義理堅く二つとって、レジに向かった。

 そしてお金を払って外に出て、二人はおもむろにドリンクを飲みだした。
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